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国家ブランディングをめぐる議論

はじめに

1節 政治的認識論

2節 政治的方法論

3節 経済的認識論

4節 経済的方法論

 

[2014年11月20日更新]

3節 経済的認識論

 

国家ブランディングが経済にどのような影響をもたらしているか

〜グローバル・キャピタリズムの観点からの考察〜

 本節では国家ブランディングが、国際関係においてどういった役割・機能を果たしているのかを、グローバル・キャピタリズムの台頭という観点から考察してみたい。

 

グローバル・キャピタリズムとは何か

 グローバル・キャピタリズム(以下GC)とは、全世界規模での資本主義経済である。

 グローバリゼーションの急激な発達により、今日では、全ての国家/都市/地域は、消費者、旅行者、投資家、学生、起業家、国際競技、文化的行事、そして国際メディアや他国の政府/民間の支持拡大の為に、世界規模でお互いに競争するようになった。つまりそれは、かつて各々の国内市場に分かれていた直接的/間接的経済主体の選択肢が、国際市場という一つにまとまったこと、それに伴い競争のアクターに国家/都市/地域同士というような狭い単位でなくより広い概念が入るようになったということである(1)

   この動きの中で、GCは第二次世界大戦後に活発になり始めた。その背景として、政治的側面では国際関係が「領土国家」間から「通商国家」間重視に変化したこと、制度的側面ではGATT(WTO)成立で自由貿易が促進されたことが挙げられる。戦後の政治的・制度的構造の変化によって世界規模の資本主義経済は、発達が推進されるようになった。

 

グローバル・キャピタリズム下における国家のパワー

 上述したグローバリゼーションが広まった競争的な市場は、変化に富み情報量が多い。そんな繁雑な市場から経済主体が商品を選ぶ際、本質ではなくイメージが重視されるようになった(2)。例えば「ファッションの(芸術の都)パリ」「技術大国日本」のような決まり文句は、人々が商品を判断するための背景にあるイメージである。戦前の「ハード」な政治的手法(=軍事力)が通用しなくなった国際社会では、イメージのような「魅せる能力」が影響や説得以上の力を及ぼす。それはイメージが経済主体を魅きつける「ソフト・パワー」であり、通商国家の強弱を決める重要な要素であるともいえる。この点についてヴァンハムは、「国際社会は、従来の政治的手法(軍事力)が通用しなくなっており、ポストモダン・パワーの重要性が高まっている。ポストモダン・パワーとは、軍事力のような『ハード』を使わず『魅せる能力』によって影響や説得以上の力を及ぼす。ポストモダン・パワーのひとつがプレイス・ブランディングである。」(3)と述べている。

 

ブランディングが国家に与える影響

 ブランディングが国家にあたえる具体的な影響、効果としてはヴァンハムが以下のように言及している(4)。つまり、ブランディングが国家に与える影響とは、世界中の消費者によって、国家と商品ブランドとが同一視されるということである。例えば、アメリカ製品は自由と繁栄のシンボルである。よって、消費者から見たブランド国家(5)の性格は、消費者が購入したブランド財の満足度に左右される。ゆえに、逆にブランド性のない、もしくは悪評を持つ国というのは、国際的な競争力を維持する上で大きな障害となり経済的、政治的な注目を集めるのが難しくなる。

 国家ブランディングの学術的教科書である『Nataion Branding』においてディニーは、ブランディングが国家に与える影響とは、他者との違いを特徴づけることによって、国際競争の中でより優位に立てることだと述べている(6)。ブランディングにより国家が達成したい主な目的は三つで、観光客の誘致、国内投資の促進、輸出の増加である。さらに発展して、より教育水準の高い学生や労働者の獲得といった目的もある。またブランディングは、通貨の安定性向上、国際社会における信頼と投資家の信頼の獲得、より強固な国際的パートナーシップの促進、国民の自信形成にも寄与するとしている。

 

ヨーロッパ圏におけるGCと国家ブランディングの相乗効果

 一方で、ヨーロッパ圏においては、グローバリゼーションやヨーロッパ統合によるGCが国家ブランディングの管理・運営に寄与した側面も指摘されている(7)。例えばEU圏内においては加盟国に彼らのブランド資産を開発、管理、発展させる圧力を強めている。そして中央・東ヨーロッパ諸国にとっては、かつての社会・経済体制からの脱却を誇示するために、ブランディングが活用されている(8)

 

結論

 したがって、国内外に広まった国家/都市/地域のイメージが、そこに帰属する商品のイメージを補強してグローバル・マーケットでの存在感を高めさせた。それは国内市場だけに向いていた経済主体の関心を魅きつけるほど、イメージが国際市場で力を発揮するようになったため、国際的な競争が起こるようになったといえる。以上の点からグローバル・キャピタリズムの台頭は、国家ブランド(Place Brand)が寄与したと考えられる。

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1.Simon Anholt(2007) 'Competitive Identity: A new model for the brand management of nations, cities and regions', Policy & Practice: A Development Education Review, Vol. 4, Spring,, p3

2.Ibid, p.3.

3.  van Ham, Peter, “Place Branding: The State of the Art,” The Annals of The American Academy of Political and Social Science, March, 2008, p.2-3.

4.  van Ham, Peter, “The Rise of the Brand State,” Foreign Affairs, Vol. 80, No. 5, 2001, p.2.

5.  Ibid, p.5.

6.Keith Dinnie, Nation Branding Concepts, Issuies, Practice, (Routledge, 2007), p.17.

7.  van Ham, Peter, “The Rise of the Brand State,” Foreign Affairs, Vol. 80, No. 5, 2001, p.5.

8.Dinne, op. cit., p.17.

 

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